単なる普通の変な人

よく変と言われるけど私は普通の人です。アイコンはあずらいちさん作画。

金原ひとみ「蛇にピアス」を読んだ。

お題「『蛇にピアス』を読んでなんか書く」

蛇にピアス (集英社文庫)

昨年の夏にelveさん(id:elve)にお題を設けてもらいながら全く読んでおらず、ここ数日でやっと読んだのでネタバレありきの感想を書きます。

短いし会話と読点だらけなのですぐ読めます。ウィキ曰く(?)124ページしかないそう。

 

今回の引用は全て「集英社文庫e文庫『蛇にピアス』」からのものになります。

 

「スプリットタンって知ってる?」

というこの作品の始まりは、川端康成「雪國」の冒頭と同じ位認知度が高いですよね。

純文学研究者には怒られるかな…芥川賞受賞作品だし、大丈夫だろ(適当)。

 

登場人物は基本的に3人。

主人公のルイ(女性)、ルイと同棲しているアマ(男性)、彫り師であるシバ(男性)。

この他にも脇役は数人出てくるのものの、この3人以外は1回の登場のみばかりで何故名前が付けられてるのか不思議な位です。

警察は1回だけの登場ではありませんが、「警察」と表記されているので個人として認識されていない事が分かります。

 

ルイはアマとクラブで知り合い、スプリットタンの事を知る。

アマのスプリットタンを見て、ルイは自分自身もやりたいと願い出る。

アマは顔中ピアスで赤毛のモヒカンの様な髪型をしており、街中を歩けば一般人は避けて通る様な見た目だが、ルイにはとても優しかった。

蛇にピアス」というタイトルはアマの事なのかな…。

 

スプリットタンと言うのは、蛇の様に舌を真ん中を切るということ。

作中でそれを含む諸々は「身体改造」と表記されている。

 

話は変わりますが、私は今まで生きてきた中でスプリットタンの人に2人会った事があります。

 

1人はアマの様にスプリットタンで顔中ピアスだらけ。髪型は茶髪の長髪とアマとは違うけれど、その異様さに私は思わず聞いた。

「どうしてそんなに沢山ピアスをあけているの?」

その人は笑顔で「嫌なことがあると1つあける」と教えてくれた。その人にとってピアスは自傷行為の1つだと言う。「リスカしてたんだけど、痕が残るし、ピアスなら着け外し自由だし」とも言うので、私はこれから先もピアスの穴は増えるのかと更に聞いた。そこでその人はスプリットタンを見せてくれた。

「これしたから、暫くはやらないと思う」

意味が分からなかった。舌を割る意味が。すごく痛そうだし。

「カッコいいけど、すごく痛そう!」と間抜けな感想を述べたところ、その人はまた笑顔で「すごく痛かった」と言った。

その時は楽しく会話をして別れたけれど、また会う気にはならなかった。私とは住む世界が違うと思った。

 

もう1人は飲食店のキャストさんだった。

私が酔って万札をばら撒いたので、LINEを教えてくれて、その時にスプリットタンを見せてくれた。その人はその飲食店で働いてる間はピアスは耳のみだったが、そこを辞めて愛知県に帰ってから顔中にピアスをあけ始めた。

その人とは個人的なやり取りはほぼ無かったが、LINEのタイムラインに写真がアップされる度にその美しい顔にピアスの穴が増えていくのが嫌で、タイムラインを見なくなった。

 

私自身も左右の耳に各2つ(計4つ)ピアスの穴があいていて、本当はもっと増やしたいと思っているのでピアスへの抵抗はない。

(ルイに止められている。)

ただ、顔にピアスをする事を私は美しいとは思わないので、顔にピアスをつける人の心理が分からないだけである。

 

閑話休題

 

ルイはアマの事を何も知らないまま同棲を開始し、アマの紹介でシバに会い、スプリットタンと刺青への一歩を踏み出す。

 

この作品では、誰の背景も描かれていません。

誰がどんな人生を歩んできたか、全く描かれていないのです。

なので、作者の金原氏は「今分かる事だけで、今そこにいる人を見てほしい」と思って書いたのかなぁとか考えました。

でも多くの人は勝手に背景を想像してしまうと思うんですけどね。

 

ルイに関してだけは、少し描写があります。

どんな経験があったのかとか、ルイがどう感じているのかとか。

Sの人の相手をする時、いつもこの瞬間私は身を硬くする。何をするか、分からないからだ。浣腸だったらいい、おもちゃもいいし、スパンキングも、アナルもいい。でも、出来るだけ血は見たくない。昔、膣にファイブミニの瓶を入れられ、危うくトンカチで割られそうになった事があった。

こんな経験、普通ではないよなぁ。

こわっ!

 

ゆっくり歩く私の足に、子供がぶつかった。私の顔を見て、素知らぬ顔をするその子の母親。私を見上げて泣き出しそうな顔をする子供。舌打ちをして先を急いだ。こんな世界にいたくないと、強く思った。とことん、暗い世界で身を燃やしたい、とも思った。

ここからルイの心中は想像出来ます。

明るい世界に背を向けたいという、ルイの心中が。

 

作品自体がルイの一人称視点で進んでいくので、ルイに関してだけは上記の様にちょこちょこと描かれています。

 

さて話を戻しましょう。

 

ルイとルイ友人とアマの3人でいる時に暴力団員風の男性に絡まれ、ヘラヘラと対応していたアマは矛先がルイに変わった途端、その男性を半殺しに。

慌ててルイはアマを正気に戻させ逃走します。

全てはここから狂っていきます。

 

後日、スポーツ新聞でその暴力団員風の男が死亡し、警察が犯人を探しているという記事を目にしたルイ。

アマが殺してしまったんだろうか、いや、こんな写真の男じゃなかった気がする、アマは殺してない、きっとあの男は生きてる。

そう自分に言い聞かせながらもアマの目立つ赤髪を染め直すルイ。

なぜ染めるのかと問うアマには適当な事を言い、記事の事は伝えなかった。

 

落ち着かない日々の中でもルイはスプリットタンと刺青のことはどんどん進めていた。

アマの知らないところでシバに会い、肉体関係を結ぶルイ。

 

この作品、下の言葉がダイレクトに書かれてるんですよ。

寝台に上がり、まだ意識が朦朧としている私の肩の上に膝をつき、チンコを差し出す。シバさんの両脚には龍が一匹ずつ泳いでいた。私は無意識のうちにチンコを手にとってくわえていた。

女性器の事は「性器」って書いてるのになぁ。

何ででしょね。

 

また話がずれた。

戻しましょう。

 

ある日、アマが行方不明になる。

行先も分からないまま半狂乱になるルイ。

数日後にシバの元に連絡が入り、アマが殺された事が分かる。

ルイは最初、あの暴力団員の復讐で殺されたのかと思うが、殺され方が普通ではない為、そうではないと思い直す。

直接的な死因は窒息死だけれど、

もう何ていうか、いじるだけいじり倒された後に、殺されたって事。

という表記と共に、非常に残虐な殺され方が描かれる。その中ですぐに読者が引っかかるのが、

ペニスには何かお線香のようなものが刺してあった。

だと思う。

この作中で出てきたお香は唯一、シバの店内だけだ。

しかしルイはこの時は気付かない。

後にルイもまた気付くのだが、アマの時と同じ様にシバには言わず、適当な理由をつけて店内のお香を新しい香りのものに交換するのみ。

 

作品の感想は様々あり、その中でよく言われるのが「愛」。

アマがルイを愛していた、ルイがアマを愛していた、ルイを我が物にしたくてシバがアマを殺した、アマとルイが愛し合っていたなど。

でも私は、この作品はルイの自己愛を描いたものだと認識しました。

 

ルイは最初、アマと同棲していてアマの庇護下にありました。

生活費から全てアマが負担していました。

途中、1回だけルイがコンパニオンのバイトで稼いでいますが、雇う側からしつこく依頼されてバイトをするだけで、ルイ自身は嫌々なのです。お金を稼ぐ必要性を感じていないのが分かります。

そしてそのアマが人を殺したかもしれない。

 

ルイが食欲をなくしどんどん痩せていく描写があるのですが、それはアマが行方不明になる前から始まるのです。

アマがつかまるかもしれないという不安で食欲をなくしています。

自分を守ってくれているアマがいなくなる不安、ストレス。

 

私自身、ストレスで食欲をなくし1週間で4キロ痩せたりした(過去形)人間なので、不安で食欲がなくなるというのはよく分かります。

 

ルイはアマの遺体を見てこう思います。

自分の所有物のように思っていた人間がこれだけ他人に弄ばれた後に殺された。こんな絶望、私はこれまでの人生の中で初めてだった。

「自分の所有物」と明記しちゃってますから…。

 

そしてその後はシバに救われルイはシバの元に身を寄せるのですが、そこでシバが疑わしい事に気づいてもそれを隠そうとする。

今度はシバがルイを守ってくれる人ですから、いなくなったら困る訳ですよ。

 

アマの遺体を見てからルイの拒食は加速し生活は荒廃していきますが、アマを殺したのがシバかもしれない、多分そうだと感じてからはルイは元気を取り戻すのです。

 

ルイは根無草の様にフラフラと漂いながら、常に自分を守ってくれる人の元にいるんだろうなと私は思いました。

 

アマがルイに愛の証としてくれた「殺した男の歯2本」。

それをトンカチで砕いて飲み込むルイは、私にはとても傲慢に見えました。

だって、アマが死んでしまった後にそんな事したって何の意味もありませんよ。

ただのルイのエゴです。

「私はアマの愛をしっかり自分のものにした」ってエゴ。

そんなこと、果たしてアマは望んでいたでしょうか?

まぁ、正解は無いでしょうけども。

 

取り急ぎ私の感想文はここまで。