単なる普通の変な人

よく変と言われるけど私は普通の人です。アイコンはあずらいちさん作画。

【ネタバレあり】映画「バグダッド・カフェ』感想。

名作だという事はずっと聞いていたけれど、何となく手が伸びないままに観ていなかった「バグダッド・カフェ」。2年前にディレクターズカット版が民放で放送されていて、録画だけして放置していたこの作品を少し前にやっと観ました。

観終わった時の感想は「良い映画だなぁ」でした。40代の今だからそう感じた気がする。20代とかだったら良さは分からなかったと思う(私の場合は)。

 

 

〈内容〉

夫とアメリカを旅行中に喧嘩をしたドイツ人のジャスミンは、砂漠の真ん中で車から降りて自分の荷物だけを持って歩き始める。

 

一方、ブレンダはモーテルとガソリンスタンを併設したバグダッドカフェを砂漠の中で経営しており、日々の忙しさや家族の助けと理解がない事から精神的余裕がなく、常に怒鳴り散らす生活を送っていました。そんな中、何度言ってもコーヒーマシーンを買い忘れ、且つ道中で拾ったポットを誇らしげに見せる夫に対して怒鳴り散らし、夫は出て行ってしまいます。

夫は出て行ってしまい、娘は店を手伝わずブレンダの目を盗んでは遊びに行ってしまい、息子はピアノの練習に夢中で自分の息子(つまりブレンダの孫)の乳飲み子の世話もせずブレンダ任せ。カフェだけはカヘンカが担ってくれるけれど、何せ店の場所は砂漠の中で、客はトレーラーの運転手が数人来る程度で売上も芳しくなさそうです。

 

そんな中、このバグダッドカフェジャスミンが辿り着きます。砂漠のど真ん中で車も連れもなく徒歩で来たジャスミンを、ブレンダは怪しみます。ジャスミンの身なりは綺麗でお金持ちそう。ジャスミンは何泊になるかは告げず、とりあえずここに宿泊する事にします。

 

部屋に入ったジャスミンは荷物を開け、それが夫のスーツケースだったと初めて気付きます。間違えて夫のスーツケースを持って来てしまったのです。しかし近くに店もなく服の調達は無理。とりあえずジャスミンは夫の服をハンガーにかけて部屋に広げます。

 

部屋の清掃に入ったブレンダは、ジャスミンの部屋に男物しかない事でジャスミンに対する不信感を確たるものとし保安官に来てくれる様に電話をしましたが、保安官が来てジャスミンのパスポートと航空券を確認しても何も問題がない為そのまま保安官は帰ってしまいます。

 

やる事のないジャスミンはカフェでコーヒーを飲んだり夫の荷物の中にあった手品キットの練習をしたりしますが、カヘンカが昼寝をしている間にふと思い立ち、ブレンダの部屋(モーテルの受付)を綺麗に掃除します。帰宅したブレンダはそれを見て激昂し全て元に戻す様に言いますが、冷静になってやはり元に戻さなくて良いと言い、綺麗になったデスクを満足げに眺めます。

 

ふとしたきっかけでジャスミンはブレンダの娘や息子と仲を深めていきジャスミンにとっては楽しい日々でしたが、ブレンダにとってはそれは非常に面白くない事でした。

ある日、ジャスミンの部屋で娘と息子が楽しく過ごしている所にブレンダが割って入り「自分の子供と遊べ!!」と言い捨てて部屋を出ようとしますが、「子供はいないの」と悲しげな顔で言うジャスミンに心を動かされ、「傷付けるつもりはなかった」と謝罪します。

 

その日を境にジャスミンとブレンダはお互いを認め始め、仲を深めていきます。

 

毎日手品キットで練習をしていたジャスミンはカフェで手品を披露し喝采を浴びます。そのままジャスミンはカフェを手伝いながらカフェに来たお客さんに手品を披露し、その腕前はトレーラー運転手の間で評判になります。今まで閑散としていたバグダッドカフェは、ジャスミンの手品目当ての客で連日満員となりました。

 

そんな日々を楽しく送っていたある日、保安官がカフェに現れます。

ジャスミンは労働ビザを取得していなかった為、ドイツに強制送還されてしまいます。

 

ジャスミンがいなくなったカフェは寂しく、ブレンダは毎日ジャスミンからの連絡を待ちます。寂しくて寂しくて堪らないブレンダ。無言電話に対しても「ジャスミンでしょ?!何処にいるの?!」と問いかけます(本当にジャスミンだったか不明)。

 

一体何日経ったのか。寂しい毎日が過ぎるだけの日々。

そんな中、またジャスミンが現れます。今回はタクシーで。喜び抱き合うジャスミンとブレンダ。他の皆も大喜びでジャスミンを迎え入れます。そしてジャスミンはまたカフェで手品を披露する様になりました。

実は出て行ってからずっと見守っていたブレンダの夫は(長過ぎだろう!)ここで帰宅し、ブレンダと強く抱き合います。

 

ある日、モーテルの常駐客であるルーディはジャスミンの部屋を訪れ、「このままだとまた強制送還になる。でもアメリカ人と結婚すれば戻らなくて済む。私と結婚しないか?」とジャスミンにプロポーズし、ジャスミンは嬉しそうな表情をしながら「ブレンダに相談するわ」と答えます。

 

〈終わり〉

 

モーテルの常駐客であるルーディは作中でジャスミンをモデルにして絵を描いています。徐々にジャスミンは服を脱いでいき、最終的にはヌードに。これはジャスミンの心の動きを表したものではないかと推測出来ます。

 

ジャスミンもブレンダも共に夫と決裂して辛い心境の中出会い、物語は最後まで「女性の力で」動いてると感じました。

 

この作品は非常にゆっくりとした時間の流れを描いており、クライマックスがありません。強いて言うならジャスミンが強制送還される所かもしれないけれど、ほぼ盛り上がりがありません。単調な印象を受けますが、その分それぞれの人物を丁寧に描いています。言葉は多くないけれど、表情で物語る作品。

それぞれの夫婦が喧嘩する理由もよくある理由だし、大きな「何か」は、ジャスミンバグダッドカフェを訪れた事以外何もないのです。でもしっとりとしみじみと心に沁みます。

 

名作かどうかはよく分からないけれど、とても良い作品でした。中年女性の孤独や苛立ち、そして喜びがとても上手く描かれた作品です。